学会賞(褒賞内田賞・ベストイメージ賞)
内田賞について・応募要項について
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第34回学術集会 内田賞
「High Wall Shear Stress Is Related to Atherosclerotic Plaque Rupture in the Aortic Arch of Patients with Cardiovascular Disease: A Study with Computational Fluid Dynamics Model and Non- Obstructive General Angioscopy」2021 Jul 1;28(7):742-753.
小嶋 啓介(日本大学医学部 内科学系循環器内科学分野)
この度は大変栄誉ある褒賞内田賞にご選出くださり、内田康美先生、選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます。
本研究では、血流維持型血管内視鏡により検出された大動脈弓部内のプラーク破綻像を有する患者は、3D-CTを基にする数値流体力学(Computational Fluid Dynamics: CFD)解析による血管壁ずり応力(Wall Shear Stress: WSS)(図1)の最大値が、有意に高値であったことが示されました(図2)。またWSSの最大値が特定の値よりも高値であることは、大動脈弓部にプラーク破綻像を有する有意な決定因子になる可能性があることが多変量解析で示唆されました。本論文はWSSと大動脈プラーク破綻の関係を報告した初めてのものであり、大変重要な意義があるものと考えております。
プラーク破綻は血管壁にかかる様々な応力が関与するダイナミックなプロセスです。不安定化したプラークに対して過剰に高いWSSはプラーク破綻の規定因子となりうることが報告されていました。本研究でも大動脈弓部全体へ平均的にかかる力よりもむしろ、大動脈壁の特定の一部分へ極めて強い力がかかる方が、プラーク破綻に影響しうる事が示唆され、プラーク破綻のメカニズム解明に光を与える研究であったと思われます。
近年、大動脈プラーク破綻から頻繁にコレステロール結晶を含む動脈硬化性成分が飛散していることが報告されており、虚血性脳卒中や腎不全、末梢動脈疾患の原因の一つとして大動脈原性塞栓症との関連が考えられています。さらにこれらの知見は、急性の末梢臓器虚血を誘発する可能性があることに加えて、無症候性に微小な塞栓が蓄積し血管性認知症を含む末梢臓器機能の緩徐な障害の原因にもなる可能性が指摘されています。したがって本研究で用いた大動脈弓部のCFD解析は、大動脈弓部の塞栓源となるプラークの発生や進展、ならびにそれによる将来の心血管イベントの予測や予防に大きく貢献するものと期待します。
最後に今回の受賞にあたり、研究の指導を賜りました本学の奥村恭男教授、廣高史教授、平山篤志教授、そして共同研究者の先生方、カテーテル検査室のスタッフの皆さんに心から感謝申し上げます。
図1 3D-CTによるCFDモデルを用いた大動脈弓部のWSS解析
A) 体幹のボリュームレンダリング像を再構成する
B) 大動脈を他の組織から特定抽出する
C) メッシュ化しポリゴン構造とする
D) 一定の流入条件と流出条件を設定してWSSの分布を計算する
E) 得られたWSS分布のカラーマッピング像
図2 代表症例
脳梗塞にて入院した71歳男性。図右に示すように、NOGAでは大弯側でプラーク破綻像が描出されたが、小弯側ではアテローム性プラークは検出されたものの破綻像は描出されなかった。CFD解析を行うとWSSの最大値が大弯側で110.0 Pa(黒矢印)と高値であり、小弯側では低値であった。